質的研究で避けるべき7つのバイアス

質的(定性的)研究は、非数値データを収集するための、調査における科学的な観察手法です。数値や量を測定する量的(定量的)研究とは異なり、質的研究では、物事や関連する特性および意味合い、そして基本的観察事項や解釈の説明が必要です。

質的研究の一般的な手法には、インタビュー、被験者観察、グループディスカッションなどがあります。これらのアプローチは、政治学、教育、社会福祉の分野で幅広く採用されており、市場調査、ビジネス、ジャーナリズムの分野で利用されることもあります。

科学的・学術的研究は客観的に行わなければなりませんが、質的研究に伴う主観性は、データを完全に切り離して考えることを困難にする場合があります。つまり、質的研究では、客観性の維持やバイアスの排除が難しいということです。

バイアスとは、「個人や集団による、または個人や集団に対する、不公平と考えられる性向および先入観」を指します。バイアスは、研究結果の妥当性や信頼性に影響を及ぼすことによって現実を歪める可能性があるため、科学の進歩にとって大きな弊害となりかねません。

そのため、質的研究の透明性や科学的厳密さの欠落が批判されるケースがよく見られます。「研究者のバイアスがかかった、単なる感想の寄せ集め」と非難されるのです。しかし、質的研究には柔軟性というメリットがあり、創造性の入り込む余地もあるため、量的研究では導き出せない知見が生まれる可能性があります。

では、質的研究にはどのようなバイアスがかかるのでしょうか?それらのバイアスを避ける方法はあるのでしょうか?それぞれのバイアスのタイプを理解し特定することができれば、その対策も見えてくるはずです。

1. 質的研究の2大バイアス

バイアスには、大きく分けて被験者バイアスと研究者バイアスという2つのタイプがあります。被験者バイアスは、被験者(回答者)が、設問に対して自分の意思とは違った「正しい」回答、または社会的に正しいとされる回答をしようとすることで発生します。また、被験者がインタビューの主催者に対して偏った考えを持っている場合、すべての設問に賛成もしくは反対してしまう可能性があります。

一方、研究者バイアスは、研究者が無意識のうちに自分の仮説に合致するようにデータを解釈したり、都合の良いデータのみを採用したりする場合に発生します。また、被験者の回答に影響を与え得る順番に設問を並べたり、特定の回答を促すような設問を用意したりすることも研究者バイアスです。

バイアスを完全に排除することは不可能ですが、減らす方法はいくつかあります。何より重要なのは、適切な対策を講じられるように、バイアスになり得るものを特定することです。この後、バイアスになり得るものと、各バイアスの回避策をそれぞれまとめました。

2. 被験者バイアス

■ 黙認(Acquiescence)バイアス、好意(friendliness)バイアス ■

傾向:被験者が責任者/研究者に賛同することを選んだときに発生する。被験者が単にインタビューを早く終わらせたいために賛同する場合もあり、これは被験者が疲労を感じている場合に発生しやすい。

回避策:被験者の安易な賛成または反対を避けるため、自由回答形式の設問を作成し、被験者が正直かつ誠実に回答できるよう導く。回答に真実味がない場合は、異なる方法で質問する。あるいは、単に「はい」と「いいえ」の2択にするのではなく、選択肢になり得るものから回答を選べるような直接的な設問を設ける。

■ 社会的欲求(social desirability)バイアス、社会的受容性(social acceptability)バイアス ■

傾向:好かれるため、または世間的に好ましく思われるために、本来の意思とは異なる回答をするケースがよく見られる。設問の内容が、センシティブ・個人的・様々な意見に分かれるものであるほど、この傾向は顕著になる。

回避策:どのような回答をしても、被験者が受容されていると感じられるように設問を組み立てる。「特定の状況下で第三者がどのような行動をとるか」などの間接的な聞き方を採用するのも良い。そうすることで、被験者は自分の考えを他者に投影できるため、正確・正直・率直な回答が得られやすい。

■ 習慣(habituation)バイアス ■

傾向:被験者が、似たような文言の設問に対して同じ回答をした場合に発生する。

回避策:異なる設問には異なる表現を使い、すべての設問を通して被験者を退屈させないようにする。

■ スポンサー(sponsor)バイアス■

傾向:被験者が研究のスポンサーに対して偏った考えを持っていたり、スポンサーの評判や理念に影響を受けたりした場合に発生する。

回避策:被験者の回答に影響を及ぼさないよう、研究者の中立性を維持することが重要。したがって、企業ロゴによってスポンサー情報を与えたり、研究者の役割や研究目的に関する詳細を開示したりすべきでない。

3. 研究者バイアス

■ 確証バイアス ■

傾向:もっとも一般的なバイアス。研究者が自分の仮説に都合の良いようにデータを解釈した場合に発生する。仮説に都合の悪いデータを排除する場合もある。

回避策:得られたデータはすべて検討し、明確かつ公平に分析する。感想や回答は繰り返し検討し、偏った前提が入り込まないようにする。

■ 設問順(question-order)バイアス ■

傾向:質問の仕方によっては、後続の設問への回答に影響を及ぼす可能性がある。被験者は、最初の設問への回答を基準として後続の設問への回答を決める場合があり、結果として偏った不正確な回答になる。

回避策:バイアスになり得る設問を準備段階で検討し、適切な順番で設問を構成する。一般的な質問をした後で、具体的またはセンシティブな質問に移る。

■ 誘導尋問(leading questions)および言い回し(wording)バイアス ■

傾向:予想される方向に回答を導いたり促したりするような設問は、回答を偏らせる可能性がある。

回避策:設問は分かりやすいものにし、バイアスを生みかねない表現を使わないよう注意する。都合の良い結果につながる誘導尋問的な質問はしない。

まとめ

バイアスが完全に排除された研究が理想的ですが、それは必ずしも現実的ではありません。しかし、研究者は、研究デザインの段階で細心の注意を払って、バイアスを排除するよう努めなければなりません。

ご承知のように、設問の組み立て方やインタビューの構成次第で、ほとんどのバイアスは排除することができます。また、バイアスのないセカンドオピニオンとして、同僚や指導教官に設問やデータをレビューしてもらうのも良い方法です。